増税やインフレで家計が圧迫されている昨今ですが、日本には合法的に税金を安くできる方法がいくつかあります。ここでは個人事業主ができる6つの節税方法について解説します。
【免責事項】下記の内容はあくまで私が実践している内容であり、税務的に正しいことを保証するものではありません。実際の税務については税理士や税務署などにご確認ください。
節税の基本的な考え方
まず税金を計算するためには【課税所得】を算出します。課税所得とは税金が課せられる所得のことですが、売上(収入)がすべてそのまま課税所得になるわけではありません。課税所得は
売上 – 経費 – 控除 = 課税所得
で計算できるので、節税のポイントはいかに控除を増やして課税所得を減らすか、ということになります。
すべての人に認められている基礎控除や、国民健康保険などの社会保険料控除などは普通に確定申告すると適用されますが、ここでは自分で申し込む必要がある6つの節税方法について説明していきます。
個人事業主の節税法一覧
節税方法 | 優先度 |
国民年金の付加保険料 | A |
iDeCo(個人型確定拠出年金) | A |
小規模企業共済 | B |
ふるさと納税 | B |
生命保険料控除 | C |
NISA | 番外編 |
国民年金の付加保険料
国民年金の付加保険料とは、通常の国民年金に追加して納付できる年金制度です。掛け金は全額控除になる上、支給時には納付額の半額が毎年もらえるようになるので、2年で元が取れる計算になります。
仮に20歳から65歳まで45年間納付した場合、
- 納付額:400円 × 12ヶ月 × 45年 = 21万6000円
- 毎月の受給額:21万6000円 ÷ 12ヶ月 ÷ 2 = 9000円
と、毎月の年金を9000円上乗せできるうえに、3年目からはまるまる利益(と言っていいのかわかりませんが)となります。
ちなみに、元とるまで国民年金は8年くらい、厚生年金は15年くらいかかると言われているので(当然、人や年代によって異なります)付加保険料はかなりお得です。
付加保険料は後述するiDeCoと併用が可能で、前納による割引も適用されるので2年前納が一番お得になります。
ただし、付加保険料は毎月400円と額が小さく、過去に遡っての納付はできません。また、国民年金基金との併用はできません。
節税というよりは年金をお得にする意味合いが強いかもしれません。
付加保険料のメリット
- 掛け金が控除になる
- 納付額の半額が毎年もらえるので、2年で元が取れる
- iDeCoとの併用が可能
付加保険料のデメリット
- 月額400円と枠が小さい
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは自分で運用する年金のことです。掛け金が全額控除になる上に、運用益も非課税になります。受け取り時には退職所得控除もしくは年金控除が適用されるため、うまく調整すればこちらもかなり税金を抑えられます。
個人事業主だと月の上限が6万8000円で年間で最大81万6000円を掛けられるので、所得税33%の人の場合27万円ほどの節税効果があります。
前述の国民年金の付加保険料との併用も可能ですが、その場合はiDeCoと付加保険料を合計した年間の拠出限度額が81万6000円となります。また、iDeCoの掛金月額は千円単位ということにも注意が必要です。
よって、単純にiDeCoの掛金を毎月6万7000円(年間80万4000円)にしてもいいのですが、私は節税効果を最大限高めるために下記のように拠出しています。
iDeCo掛金 | 付加保険料 | |
1月 | ¥67,000 | ¥400 |
2月 | ¥68,000 | ¥400 |
3月 | ¥67,000 | ¥400 |
4月 | ¥68,000 | ¥400 |
5月 | ¥67,000 | ¥400 |
6月 | ¥68,000 | ¥400 |
7月 | ¥67,000 | ¥400 |
8月 | ¥68,000 | ¥400 |
9月 | ¥67,000 | ¥400 |
10月 | ¥68,000 | ¥400 |
11月 | ¥68,000 | ¥400 |
12月 | ¥68,000 | ¥400 |
合計 | ¥811,000 | ¥4,800 |
このように毎月の掛金を指定することで、iDeCoの年間の掛金合計を81万1000円にしています。
資産運用というとNISAが注目されていますが、個人的には掛金が控除になるiDeCoのほうがメリットが大きいと考えています。
iDeCoのデメリット
iDeCoは節税効果が非常に高い反面、デメリットもいくつかあるので注意が必要です。
60歳になるまで受け取れない
iDeCoは年金なので、基本的には60歳以降の受け取りとなります。もしそれ以前にまとまった資金が必要になる予定があるのならNISAで運用するのがいいかもしれません。
手数料がかかる
iDeCoでは加入時と毎月の運用に手数料がかかります。この手数料は掛金によらず定額のため、あまりに少ない掛金だと割高になってしまします。
手数料の金額は証券会社によって異なりますが、SBI証券や楽天証券などのネット証券なら月数百円程度で最安です。
税金が掛かる可能性がある
iDeCoは特別法人税の対象とされています。特別法人税とは、企業年金の積立金に対して課税される税金のことで、税率は1.173%です。
今のところ2026年3月31日までは、この特別法人税による課税は凍結されていますが、それ以降でもし凍結が解除された場合はiDeCoの資産に課税される可能性があります。
こればっかりはどうなるかわかりませんが、個人的には将来的に凍結は解除されて課税対象となる可能性が高いと考えています。仮にそうなったとしても、やはり税率よりも運用の期待利回りや節税効果のほうが高く、メリットのある制度だと考えています。
元本割れの可能性がある
これもあくまで可能性の話ですが、運用商品や市況によっては受け取り時に元本割れする可能性もあります。
ただし、資本主義経済で経済成長が前提となる社会において、適切な運用商品を選んで数十年運用して損が出る可能性は限りなく低いと個人的には考えています。少なくともインフレや円安リスクを考えれば、日本円を現預金で持っているよりはよっぽどマシだと思います。
iDeCoのメリット
- 掛け金が控除になる
- 運用益が非課税
- 受け取り時に退職所得控除もしくは年金控除が適用される
iDeCoのデメリット
- 60歳まで受け取れない
- 手数料がかかる
- 税金が掛かる可能性がある
- 元本割れの可能性がある
小規模企業共済
小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者のための退職金積立のようなものです。「企業」と入っていますが、法人化していない個人事業主でも利用できます。
掛金が全額控除になり、受け取るときは退職所得控除もしくは年金控除が適用されるため普通に所得税を払うよりもかなりお得になります。掛金の利回りは1%ほどとそれほど高くはありませんが、やはり控除になるのがでかいです。
掛金は月額1000〜7万円まで自由に設定でき、後で変更することも可能です。1年分の一括納付をすると若干割引があります。
また、いざというときに低金利で事業資金を借りることもできます。
ただし、受取の条件を満たさないと元本割れする可能性があるので注意点が必要です。細かい条件は公式ホームページをご確認いただきたいのですが、
- 6ヶ月以上納付する
- 事業を廃業する
この2点を満たしていれば満額の共済金が受け取れます。個人事業主の場合は廃業届を提出すればいいだけなので、それほど難しい要件ではないかと思います。
退職所得控除は勤続年数(小規模企業共済の場合は加入年数)に応じて控除額が大きくなるので、個人的には開業届を出したらとりあえず月額1000円だけでも申し込んで加入年数を稼いでおくのがおすすめです。
小規模企業共済のメリット
- 掛け金が控除になる
- 受け取り時に退職所得控除もしくは年金控除が適用される
- 低金利の融資制度がある
小規模企業共済のデメリット
- 受取条件を満たさずに解約すると元本割れする
- 短期(6ヶ月未満)で受け取ると元本割れする
ふるさと納税
みんな大好きふるさと納税。市区町村などの地方自治体に寄付をすると、所得税と住民税から一定額控除されるという制度です。厳密には節税ではなく税金の前払い制度と言えますが、自己負担2000円でいろんな返礼品がもらえるのでお得感があります。
総務省から返礼品にかかるコストは3割以下にすべしというお達しが出ていますが、米や肉など、市場価格と比べると5割くらいのコストがかかっていそうなものも多く見られます。
寄付金上限額は計算が複雑なので、シミュレーターを使うのがいいと思います。給与所得者用のシミュレーターや簡易シミュレーターだと各種控除額を考慮した正確な寄付額が計算できないので、下記のような個人事業主用のシミュレーターを使いましょう。
上限を超えて寄付した分は当然控除対象となりませんので、収入に波のある個人事業主の場合は計画的に寄付をする必要があります。
個人的にはその年の収益見込みを計算しながら、6月、9月、12月くらいに分けて寄付をするようにしています。返礼品の中には3ヶ月定期便や6ヶ月定期便のようなものがあり、それらを選べばさらにお得感が増します。12月にまとめて寄付をするのではなく、複数回に分けて寄付をすることでこのような定期便を利用しやすくしています。
ふるさと納税のメリット
- 所得税と住民税から控除される
- 返礼品がもらえる
ふるさと納税のデメリット
- 上限を超えた分の寄付は控除対象とならない
- 自己負担2000円がかかり、課税所得が低いとメリットが少なくなる
生命保険料控除
生命保険料控除とは、支払った保険料に応じて一定額を控除できる制度です。生命保険料控除は3つの区分に分けられます。
- 一般生命保険料控除:終身保険、定期保険、学資保険など
- 介護医療保険料控除:医療保険、がん保険、介護保険など
- 個人年金保険料控除:個人年金保険料税制適格特約がついた個人年金保険
各区分ごとに所得税で最大4万円(合計12万円)、住民税で最大2万8000円(合計8万4000円)が控除となります。
iDeCoや小規模企業共済と比べると控除額がそれほど大きくないので優先度はそれほど高くありません。手続きの手間と節税の効率性を考えると所得税33%以上になってから考えればいいかなと思います。
また、節税のために不要な保険に入ってしまっては本末転倒です。もちろんライフプランとしてすでに生命保険に加入しているならぜひとも活用したい制度ではあるものの、節税しようとして無駄な出費が増えては意味がありません。
そこで「現時点で保険は入っていないけど少しでも節税したい!」という方にはこちらの商品がおすすめです。
「じぶんの積立」はいつ解約しても返戻率が100%以上のため(元本割れしない)実質的に控除がきく定期預金のようなものと言えます。
生命保険料控除のメリット
- 生命保険料を一定額控除できる
生命保険料控除のデメリット
- 控除額がそれほど大きくない
NISA
いわゆる節税とは少しずれますが、NISAについても簡単に触れておきます。
NISAは投資の運用益が非課税になる制度です。2024年から大きな制度変更があり、年間360万円、累計1800万円までの投資が可能になりました。
仮に1800万円を年利4%複利で運用した場合、20年後には3900万円ほどになります。普通の口座だと420万円ほどの税金がかかりますが、NISAだとそれが非課税になります。
NISAを活用して少しでも多くの老後資産を貯めておきたいですね。
節税額の試算
上記で紹介した節税方法で実際にどれくらい節税できるか試算してみましょう。所得2000万円くらいまでは法人化せずに個人事業主でいく人もいると思いますので、下記の前提条件で計算します。
- 他の控除を適用した後の所得が2100万円(所得税40%)
- 住民税は10%として計算
- ふるさと納税として76万円を寄付
節税方法 | 控除額 | 所得税の節税額 | 住民税の節税額 |
国民年金の付加保険料 | ¥4,800 | ¥1,920 | ¥480 |
iDeCo(個人型確定拠出年金) | ¥811,000 | ¥324,400 | ¥81,100 |
小規模企業共済 | ¥840,000 | ¥336,000 | ¥84,000 |
生命保険料控除 | 所得税:¥40,000 住民税:¥28,000 | ¥16,000 | ¥2,800 |
小計 | – | ¥678,320 | ¥168,380 |
復興特別所得税(所得税の2.1%) | – | ¥14,200 | – |
合計 | ¥692,520 | ¥168,380 |
所得税と住民税合わせて86万円も節税になる上に、ふるさと納税76万円分の返礼品として22万円分くらいの商品を貰えることになり、合計で100万円以上もお得になります。
所得税40%の場合、手取りを増やすには収入をその倍増やす必要がありますので、実質的に収入が200万円増えたことと同等と考えられます。これはでかい。
個人事業主の節税方法まとめ
個人事業主なら誰でも利用できる節税方法についてまとめました。日本はなかなかに税負担が重い国ですが、少しでも手取りを増やせるように賢く生きていきたいですね。
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